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秀行合宿の思い出

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こんにちは、柳澤です。

 

気がついたら、もう年末ですね。

 

毎年、この時期になると思い出す事があります。

 

囲碁界ではもはや伝説となっている、

秀行合宿に参加させて頂いた事です。

 

いつも年の瀬に湯河原で行われ、僕が入段して少しした頃までやってました。

もう6、7年くらい前ですかね。

幸運にも、最晩年の秀行先生に、お目にかかる機会を得ることができました。

 

合宿ではリーグ戦を打ち、その碁を先生に講評して頂きます。

打っては見てもらう、打っては見てもらうの繰り返しです。

 

人数が多いので、講評もかなりの重労働。

この頃は、曹薫鉉九段が師範代として韓国から招かれていました。

 

「クンゲンは100年に一度の大才だ。お前達、薫鉉先生の言う事をよく聞いておけ!」

と秀行先生。 

 

宿に到着すると、さすがに錚々たる棋士たちが集まっています。

そんな中に一人、見かけない少女がちょこんと座っていました。

 

はて、あの子は一体誰のつながりでここに来れたんだろう?

と思っていると、僕がその子と打つことになりました。

 

すると、なんと秀行先生が僕の方を見て、にっこり微笑んでいるではありませんか!

そして、先生はおっしゃいました。

 

「おう、君がリナちゃんを打ってくれるのか。よろしく頼む」

 

・・・・・・

誰のつながりどころではない。

御大と血のつながりのある少女でした。

 

手合い割りは3子。

ほう、そんなに打てるのか。

 と余裕で構えていました。

 

打ち始めると・・・

 

ん?

 

あれ?

 

マジで強い・・・

 

途中から必死の手練手管を使って追い上げました。

 

終盤、白地の中に、味のわるい所がありました。

「まあ、こんなところを手にされたらしょうがないな」

と思って手を抜きました。

 

一瞬で手にされました。

 

「・・・負けました」

 

なんだこの子・・・

と放心していると、ポンッと僕の肩を叩く人がありました。

 

振り向くと、薫鉉先生が満面の笑みで僕を見ているではありませんか!

そして先生は言いました。

 

 

「どきなさい」

 

 

・・・・・・

 

満面の笑みが向けられていたのは、僕の向かい側でした。

 

 

曹薫鉉VS藤沢里菜(9歳) 

の早碁が始まりました。

 

 

かつて、秀行先生と十代前半の薫鉉先生は早碁を数えきれないほど打ち、

一局5分〜10分で終わった、と伝え聞きます。

 

そんな天才が本当にいるのかよ!?

と思ったものでしたが、

今目の前で、その伝説のエピソードが再現されています。

 

たぶん一瞬で4、5局くらい打たれたと思います。

僕はそれを呆然と眺めました。

 

その後、リーグをもう一局打ち、夜・・・

 

いよいよ講評の時間です。

 

講評用の碁盤が部屋の中央に鎮座し、

その向かい側に薫鉉先生。

側面に秀行先生がドンと構えています。

 

「さあ、誰からかかってくるんだ?」

 

という秀行先生の言葉に、静まり返る部屋。

 

僕は意を決し、膝行で前に進み出ながら言いました。

 

「お願いします」

 

「うむ、名を名乗れ」

 

「はッ、柳澤と申します」

 

「ほう、強そうな名前ですね。よし、並べてみろ」

 

もちろん、20手と並べないうちに、

「ヘボッ!」

というお言葉をちょうだい致しました。

 

講評は基本的に、薫鉉先生がされます。

 

その判断の早きこと、

指摘の的確なこと、

快刀乱麻を断つ、とはまさにこのことかと思いました。

 

そして、一通り解説する度に 

「違いますか?先生」

 と、必ず秀行先生にコメントを求められます。

 

でも、薫鉉先生がだいたいの事を言った後だったので、

秀行先生も

「・・・・・・」

となることが半分くらいでした。

 

ちなみに、薫鉉先生があまりにも

「違いますか?先生」

を連発するので、

合宿中、一部若手棋士の間でこの言葉が流行しました。

 

ある棋士の碁の検討で、結論が出ない手どころがありました。

周りを囲む一流棋士や、手の見えることに定評のある若手棋士達が

どれだけつついても、一向に納得いく答えが出ません。

 

すると、秀行先生が、

「ここはどうだ?」

と指差しました。

 

誰も気づかなかった妙手でした。

 

一同が呆気にとられていると先生は、

「フフフ・・・ニオうんだよ!」

と、最高のドヤ顔を見せられました。

 

この

「フフフ・・・ニオうんだよ!」

も、その後ある若手棋士がモノマネしてました。

(その若手棋士は、今や六冠王になっているとか、いないとか)

 

 

秀行塾名物といえば、先生への肩もみ。

僕もその役目を仰せつかりました。

 

初めて触れた先生の肩は、、、

大木の根っこを掴んだかと思う感触でした。

 

これが凄まじい波瀾万丈の人生を生きたカラダなのか・・・

 

そして、秀行先生は座椅子にお座りになっているのですが、

時間と共に、だんだんずり落ちていってしまわれます。

 

80歳を超えられた先生は、

すでにご自身では体勢を戻せなくなっておられました。

 

なので肩もみ役には、先生の体勢を支える、という陰の役目もありました。

 

 

とある休憩時間。

 

秀行先生とその孫娘のツーショットを目撃しました。

 

すると、先生は相好を崩しながら、唐突に

「リナちゃん、おじいちゃんの顔、面白いか?」

 

ええっ!?

なんて答えるんだろう・・・

と注目していると、

 

少女は何も答えず、可愛らしい仕草で はにかみ笑い。

 

それでもおじいちゃんは、とても嬉しそうでした。

 

 

・・・・・・

 

 

ここまで思い出すままに書いてみました。

印象的なことは、何年経っても覚えているものですね。

 

偉大な先生と同じ時間を過ごせたことを、

改めて、大変ありがたく思っています。

 

 

ところで、僕は今日これから、浜松に行ってきます。

 

十代の棋士を対象とした、GOGOジャパンの合宿が行われているのです。

 

12月27日から、31日(!)までの日程が組まれています。

 

(発案は、GOGOジャパンコーチの高尾紳路九段だそうです)

 

 

十代でもなく、GOGOジャパンにも入っていない僕がなぜ行くのかというと、、、

 

見に行ってきます。

 


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